目が覚めたのは扶桑の山の中。修行に使っている小屋だった。データロード中のまどろみから目を覚ました私は、大きくあくびをしながら体を伸ばす。まだ少し夜明けには早いようだった。
それなりに整えたとはいえ、やはり山小屋での目覚めはベッドでの目覚めと比べて何となく体が硬くなっているような気がする。ポキポキと身体を鳴らしながら、小屋の外に出て、外に設置した焚火に火を入れる。
扶桑ではスキルを使えないので、当然【生活魔法】も使えない。代わりに扶桑の道具屋で購入した火起こし用の道具――さすがにあの紐でゴリゴリ回転させるやつではなく、ファイアピストンです。
薪をわずかに削って木くずを作り、さらにピストンの先に布を詰める。ピストンを一気に押し込こむ。すると、圧縮された空気は布の発火点を越えて火が付く。いや、もう少し難しい理屈があるのかもしれないが、私の理解はそんなものだ。
ともかく火が付いた布を木くずのほうに移し、少し大きくなった火を薪のほうへ……この辺りも慣れたものです。火が無事に薪に移ったのを見届けて、近くの川へと水を汲みに行く。
そうして時間をかけてお湯を沸かしているうちに、陽が上がってくる。
パチパチと薪がたてる音を聞きながらお湯を沸かして、お茶を入れる。贅沢だなぁ……。本日の茶葉はファガットのほうにある村で購入したものだ。アッサム系のお茶なのか? 体が目覚めるような切れがいい風味。ミルクを入れてもいいかもな。
お茶のカップを片手に本日の朝食用の魚の焼き加減を確認。魚は水を汲むついでに、設置しておいた罠から回収してきたものだ。ついでに筍と山菜を入れて炊いた飯盒のご飯が朝食です。魚も一匹ではないので、一人分には多い気がするが余ったらポーチに入れておけばいい。異邦人万歳です。
「あ、いいタイミング?」
「ペテロ」
そこにペテロがやってきた。
「おはよう」
「おはよう。焼き魚?」
「食べるか?」
「うん。これ御裾分け」
そう言ってペテロが渡してきたのは『扶桑ひじき』。海のほうへ行ってきたんです? まぁありがたくいいただきましょう。
飯盒を開く。よしよし、いい感じです。いい感じに脂があふれてきた魚を皿の上によそったご飯と一緒においてペテロに差し出す。味の調整は自分でしてください。と、塩コショウとスパイス瓶を置く。
「なんか知らないものが増えてる」
「あちこちで面白そうなスパイスを見つけるとつい」
レオやシンのことをとやかく言えない私です。ペテロのあきれた視線から逃げるようにスパイス瓶を一つ手に取る。これは扶桑で買ったものだ。山椒がメインのやつです。ペテロは無難に塩にした模様。
「レオとシンは全部かけて自爆しそうだね」
「あいつらの前では複数出さないようにしよう」
ペテロの予想というよりもほぼ予言に私はそう決意した。ペテロも「そのほうがいいだろうね」とうっすらと黒い笑みを浮かべてうなずく。
「それで、何いか用だったんじゃないか?」
「そうだった。ホムラのところでご飯食べてるとついつい」
ごくり、と、ペテロは魚の白身を飲み込むとそういってウィンドウを呼び出し、その一つをツイっと私のほうへと向けた。そして再び皿へと視線を戻す。気に入ったようでなにより。
それで、えーと何々……?
「護衛任務?」
「対鬼なんで、実力者求って感じ」
「ほー」
ペテロが持ってくるクエストだし、何かありそうだがそれはそれで面白そうです。ペテロとパーティを組むのを了承すると、私のほうにもクエスト詳細の情報がやってきた。
さて、今日という日を始めましょうか――。
