言われていたが、予想以上に手ごわくなり、そして数の多い魔物に日々の疲労が蓄積していくのは仕方がない。
フェリがそっと周囲にばれないようにため息をつきながらアヴァンが淹れた紅茶を受け取る。この紅茶も、伯爵家で飲んだものとは比べ物にならい。孤児院で飲むお茶という名のわずかに色が付いたお湯よりはましだが、資源が限られた旅の途中だ。どうしても味は劣る。
「どうぞ」
そう言って差し出されたのは真っ白な小さな四角、砂糖だった。どうしたの、それ。と視線で問えば、「ヴェルナー様が」とのこと。
「フェリが甘党みたいだし、余裕があったら持っていけ、疲れには糖分がいいし、フレンセンやアヴァン殿も、な」
食べすぎるとそれはそれで疲労の原因とのことだが、適度な糖分補給は頭にもいい。と、彼の主が言っていたそうだ。
「さほど数がありませんが」
「うん」
アリガト。と、少しだけ固い口調で礼を言って、一粒だけカップに入れる。カップの中身は茶と言うにもおこがましいほどのフェリにとっては苦みの強いものだったが、それでもだいぶましになった。
貧民出身のフェリでも、いや、だからこそ精製された白い砂糖が高級品だと知っている。知っていて毎回伯爵邸でどかどか入れていたのかと聞かれれば、富があるところから頂戴するのは当然だと嘯くだろう。
――余談だがそう言ってもあの子爵様なら「なるほど」と笑って許してくれる気がする。
フェリに続いてアヴァンもカップに入れるのが見えた。ほんのりと甘い液体に、自然に口角が上に上がった。
奇しくもトライオットの滅亡の方がもたらされたばかりだ。わずかに緊張していた身体が甘さに溶けていくようでもある。
「あともう少しですね」
アヴァンが言い、フレンセンが頷いた。ヴェルナーの指名した町は既にほとんど回り、残すところあと二つほどだ。彼が示した通りの武具は実際に売っており、指定したアイテムも売っていた。
――ならば、ヴェリーザ砦は落ちるだろう。
誰もが口にしなかったが、ヴェルナーの見解と予想を信じぬものはここにはいない。きっとそうなる。
「フェリ殿は戻ったらどうしますか?」
「んー、とりあえず、状況によるかな」
もし、本当にヴェリーザ砦が落ちて、その奪還にマゼルたちが動くようならば、それに参加してもいいかな。と、フェリは少しだけ甘いお茶をすすりながら、そう考えた。