2024年1月3日水曜日

安楽椅子探偵ヴェルナー6


  王宮から帰る時に屋敷から馬車が来ていた。

どういうことかと首をかしげると、必ず馬車で帰るようにと申し受けているとのことだ。


「なにがあった」

「どうも市井の方が騒がしいようですので」


迎えに使用人にそう言われて、俺は頷いて馬車に入った。父にも別に馬車が出されているらしい。

一体何が起きたのかと思っていたが、屋敷に戻って理由が判明した。


「殺人事件」

「それも連続して起きたようです」


フレンセンが教えてくれたことによると、冒険者の一人が酒場で客の二人を突然襲い掛かって殺したそうだ。犯人はそのまま逃走。現在も捕まっていないらしい。


さらに市内では女性が遺体で発見された。

先日暴れた冒険者が以前その女性に手ひどく振られた過去があるとのことで、自棄になった冒険者が殺したのではないかと言われている。


スラム近くの廃屋で顔をめった刺しにされた遺体が発見されている。

その少し前に逃走中の冒険者に似た人間がうろついているという話もあり、憲兵が探りを入れていたところだったらしい。


さらに市内を警邏中の憲兵が一名殺害される事件が発生。

ツーマンセルを組んでいたもう一人が逃走中の冒険者であったと証言しているという。


「物騒だな、おい」


ヴェルナーは思わず顔をひきつらせた。念のため使用人も全員家に帰さずに屋敷に内で待機させているという。


「その方がいいだろうな」


フレンセンの言葉にヴェルナーは頷いた。

しかし、逃走した冒険者が見つからず数日が過ぎてしまった。


「と言うわけで、お知恵を拝借」

「おいおい」


ドレクスラーがヴェルナーの屋敷を尋ねる。


「リリー、こいつはドレクスラー。マゼルの友人でもある。ドレクスラー、彼女はリリー。マゼルの妹で、今は俺の屋敷で働いてもらっている」

「よろしくお願いいたします」

「なるほど、よく似てるな」


そんなやり取りをした後、ドレクスラーから話を聞くヴェルナー。


「なるほどな。ところで、最初に殺された冒険者と加害者の関係は?」

「昔、依頼の件でトラブルがあったらしい。まぁそれが酒場で顔を見合わせ、酒も入っていたのでと言う感じだな」


年に一度は起きる感じの代わり映えのない話だ。と、ドレクスラーは肩をすくめた。


「つまり突発的な犯行だったわけだ」

「だな」

「しかし、そこから昔振られた女を殺害するっていうのも変な話だな」

「勢いかもしれないぜ? 二人殺してるんだ。そいつも処刑ないし、何らかの罰は免れない」


二人殺すのも三人殺すのも一緒ってことかもしれねぇ。とドレクスラーは言う。


「いや、地図を確認したが、事件を起こした酒場と女性が殺された場所は遠すぎる」

「待て待て、なんでこんな詳細な王都の地図持ってるんだ?!」

「あー、他言無用で頼む」


※リリーが描いた奴の写し


「ったく。わかったよ。そんかわし、頼むぜ」

「努力はするが、別に俺は専門家じゃねぇんだけどな」


ともかく、酒場と女性の殺害場所は離れていて、いくら隠れて行動しているとはいえ、危険度が高すぎる。頭に血がのぼっていたとしてもわざわざ殺しに行くような場所じゃないだろう。と、ヴェルナーは言う。


「そも、殺害した瞬間は頭に血がのぼっていたとしても、そのあとは意外と冷静に戻っているもんだ」

「あぁ、なんとなくわかるな」


モンスター相手でも、とどめを刺した後は一気に冷静に戻ったりする。とドレクスラーが言う。

言葉は変だが、賢者タイムに近いかもしれないな。とヴェルナーは脳内でつぶやく。


「ってことは別件か?

 たまたま、酒屋で暴れた奴に関係する女が殺されたってだけか?」

「その可能性はあるが……気になるのはこの顔がつぶされて殺された男だ。身元が判明するるようなものはなかったのか?」

「あぁ。一般には公開されてないが、そもそも廃屋は燃やされててな。消火後の後に発見されたんで、詳しい身元は分かってねぇんだ」

「それは、めんどうだな」


前世なら歯形やDNAとかでわかるんだけどな。と、ヴェルナーは顔をしかめた。


「ってことは?」

「あくまで思い付きだ。あとはお前さんたちが足で証拠を集めてもらうしかないんだがな――」


ヴェルナーがそう言って自身の推理を口にすると、ドレクスラーは難しい顔をした。


「お前、そいつは」

「あくまでも、推測だ。だがあまりにも短期間で起きてる。

 せめてもう一度女性の周辺を調べてみることをお勧めするぜ」

「……あぁ、わかった。助かったぜ」


ドレクスラーはそう言うと、リリーに紅茶の礼を言うと屋敷を後にした。




数日後、再びドレクスラーが屋敷を訪れる。


「捕まったよ。殺された憲兵とコンビを組んでいた憲兵が自供した」

「そうか」


ドレクスラーの言葉にヴェルナーは頷いた。

殺された女性と憲兵はどうも憲兵が職務上に得た情報をもとにユスリ、タカリのようなことをしていたらしい。

殺害した憲兵も脅迫されていた一人だったようだ。


「ゆすりのネタは話せねぇけど」

「知りたくもねぇよ」


ドレクスラーの言葉にヴェルナーは肩をすくめた。

ともかく、憲兵は何とか女を排除したいと思っていたところで女にかかわりがある冒険者が酒に酔って殺害事件を起こしたことを知った。

そこで冒険者の仕業に見せかけて女を殺害。

さらにどうやってか逃走中の冒険者と接触し、廃屋に匿うふりをしてこれを殺害し、顔をめった刺しにして廃屋に火をつけることで身元がわからないようにした。


さらに女の残したもので自身の相棒が脅迫に関わっていることを突き止めた憲兵が冒険者に返り討ちされた風を装ってこれを殺害したというわけだ。


「とんでもねー話だな」

「上層部はてんやわんやだぜ」


何しろ憲兵の一人が殺害事件にかかわっていたし、被害者の方も恐喝の共犯だ。しばらくは騒がしいことになるだろう。

ともかく、殺人事件については焼死体を容疑者として発表。こちらは罪の意識に囚われて自殺と言うことで処理するとのことだ。


「了解」

「今回も助かったぜ!」


こいつは兄貴から。と、酒のボトルを預かってヴェルナーは苦笑いを浮かべた。

バッカニア