学園の長期休み中。
家に帰らないマゼルに合わせてヴェルナーも学園の寮にちょくちょく顔を出している。
そんな中、領地に帰ったはずの友人の一人が学園に戻っていることに気が付いてヴェルナーとマゼルが首をかしげた。
「おう、どうしたんだ?」
「たしか、領地に帰るっていってなかったっけ?」
そんな二人に友人は肩をすくめて苦笑いを浮かべた。
母親のダイヤの指輪が何者かに盗まれてしまったらしい。箱に入れていたものを目を離したすきに消えてしまったとかで、外部からの盗みは状況時に無理。
そのせいで使用人や家族が疑心暗鬼で居心地が悪いのだという。
彼自身はたまたまその日は一番下の弟と町に出ていたので容疑がかからなかったようだが、家じゅうがギスギスしており、居心地が悪いので予定を繰り上げて学園に戻ってきたというのだ。
「それは、大変だったね」
心底同情した。と言うようにマゼルが言う。
「全くだよ。家中が嫌な雰囲気でさ。ストレスのせいか弟の鳥が死んだし」
そっちはそっちで弟が大泣きだし、母親はあまりその鳥が好きではなかったので、ヒステリーを起こして死体を捨ててこいと叫ぶもんだから、弟がさらに泣いたらしい。
「鳥」
「おう、結構でかいんだ。ヨウムとか言ったか?」
そりゃでかいな。と、ヴェルナーも驚いたように言った。頭がいい鳥で、人間の言葉も覚える。それを面白がって彼を含めた三兄弟があれこれ教えた結果、あまり品がいい言葉を覚えなかったらしい。あと純粋にでかいこともあって母親は好いていなかったらしい。
男兄弟のあるあるだよなーと、ヴェルナーは苦笑いを浮かべ、マゼルは人の言葉を覚えるんだ。と、感心したように言う。
「たしか、人間の子供でいうところの五歳ぐらいの知能だったか?」
「あーなるほどなぁ。通りで」
ヴェルナーの言葉に何か納得したような様子で苦笑いを浮かべつつ頷いた。
「災難だったな」
「まったくだぜ」
「でも、実際に鳥の死体を捨てる前に確認した方がいいと思うぜ」
「あ?」
「鳥ってのは光物が好きだって聞いたことがある。五歳ぐらいの子供がキラキラ光るものをつい口に入れるのって、よく聞く話じゃないか?」
ヴェルナーの言葉に友人ははじかれたように踵を返すと「サンキュー!」と叫んで走り去った。
半月後、「無事に見つかった」と言う報告とともに彼の領地の特産品だという美しい絹織物を貰ったヴェルナーである。
「お前なぁ、これを俺にどうしろってんだよ」
「シャツでも仕立てろ。お前が着ればそれだけで宣伝になる」
「何言ってんだか」
「きっと似合うよ、ヴェルナー!」
無邪気に言うマゼルに、何とも言えない表情を浮かべつつ頷くヴェルナーだった。