タイトル通りの話。
肉球の日(2/9)にあげたかったけど、その日を知ったのがすでに翌日だった…。
――肉球を集めてきてほしい (0/10)
冒険者ギルドに貼られた明解すぎて裏があるんじゃないかと思えてしまう依頼。依頼人は――肉球マニアのベン。うん、裏なんかありませんね!
というわけで、何か面白い依頼でもないかと久々にファストの冒険者ギルドの掲示板を覗いた私は、見つけたその依頼に指をわせる。すると詳細が表示された。なになに、肉球であれば何でも可。珍しい肉球の場合は追加報酬あり。肉球は専用の道具があり、それに肉球を押し当てるとに肉球スタンプが浮かび上がるらしい。なにそれ便利。私も欲しい。
最悪、マジで前脚とかとってきてほしい的な依頼だったらどうしようと、ちょっとだけ思っていなので、平和的な依頼で安心した。専用のアイテムはギルドの受付で依頼受注を告げるともらえるらしい。
そんなわけで受付にいたショートボブのプラムに声をかけて以来の受注を告げると専用アイテムをもらう。雑談ついでに依頼人を聞くと、肉球マニアのベンとやらはファストの東に住んでいる職人らしい。もともとは猫や犬が好きだったそうだが、重度の動物アレルギー持ちで近づくこともできず、憧れが高じて専用アイテムまで作った錬金術師であるという。うむ、モフモフ好きとして多少わからなくもない。
肉球はどんなものでもいいらしい。同じ種類だろうが、肉球は肉球というだけで素晴らしいとか。肉球マニアを自称するに恥じない精神ですね。
アイテムは本、というより御朱印のような綴じ方をされていた。名前もズバリ『肉球帳』。念のため【鑑定】してみると、「肉球を集めるためのスタンプ帳。紙の表面に特殊な染料が使用されており、肉球にのみ反応する。画期的なアイテム」と表示された。
確かに画期的なんだが、こう、何だろう。とても残念なのは。
念のため、雑貨屋にいたカルとマーリンにも【鑑定】してもらう。私よりレベルが高いだろう二人なら、私が見えない表示があるかもしれない。いや、鬼の『閻魔帳』のこともあるので、慎重を期したかったのだ。
結果は白。特に隠されたテキストはなかった。マーリン曰く、とても高性能な無駄機能らしく何とも言えない顔をしていた。
そんなわけで、依頼をこなすべくまずは『クランハウス』へ向かう。最初はクズノハに頼もうかと思ったが、名前的に依頼人は男だろうから男嫌いのクズノハには肉球とはいえ嫌だろうと判断したのだ。
「そんなわけで、『黒天』と『白雪』の肉球をください。あ、もちろん『アルファ・ロメオ』もな」
「なんでし?」
「『黒焼き』は?」
「武田君はいらねぇの?」
クランハウスにはちょうど全員そろっていたので、それぞれの騎獣の肉球を頼む。残念ながらお茶漬とシンの騎獣は肉球がないのだ。
「『白虎』」
「ガウ?」
「ここに、ぽんと、そうそう」
私の騎獣を呼ぶと、ペテロの『黒天』と一緒にいた『白虎』がなぁに? というように近づいてくる。その毛並みをモフモフしたあとに、その前脚に開いた肉球帳を開く。手でぽんとやって見せると、それに倣うように『白虎』が『肉球帳』に前脚を置く。すると「Pon!」と軽い音がした。
びっくりしたらしい『白虎』が慌てて前脚をどかすと、そこには大きな肉球が。うむ、『白虎』は肉球もかわいいぞ。一応、前脚を確認したが傷とか汚れはない。本当に便利だな。
「すごいでしね」
「なんのクエストを引き受けたの」
「わははは、おもしれぇな!」
私が『白虎』の確認をしているうちに『アルファ・ロメオ』を呼び寄せたレオがさっさと肉球をスタンプさせていた。タヌキの肉球ってまじまじ見たことはないのだが、こんな感じなんだな。スタンプを終えた『アルファ・ロメオ』はサッと外に飛び出していった。
「で、結局何なの、これ」
「肉球集めのクエストだ。肉球だけに反応する染料が塗布されているらしい」
『黒天』と『白雪』にも無事に肉球を押してもらえました。猫と虎もやはり少し違うんだな。
私の説明にお茶漬がマーリンと同じような顔をした。
「なにその無駄に高性能な染料。才能の無駄遣い過ぎる」
「普段は魔法陣とかに使う染料を作っている職人だそうだ」
その後はそのまま迷宮攻略に行きました。依頼自体は特に期限はないしな。
「すまない、『肉球帳』の納品に来たんだが」
「お、おぉぉぉ! ドウゾドウゾ! こちらへ! ササッ『肉球帳』を!」
しばらくして、10個の肉球を集めて依頼人のところへ行くと大歓迎された。いや、目が血走ってて怖いな?!
そっと『肉球帳』を差し出すと、震える手でそれはそれは丁寧に持ち上げるとパラリと開く。
「おぉ! これは虎ですね!? このサイズ、騎獣でしょうか。もしやあなたの騎獣ですかね?」
「あ、あぁ」
「その隣は……これは……サイズとしては同じ騎獣でしょうか? 犬……いえ、少し違いんすね?」
「あータヌキだ」
「タヌキ! これが!! これは珍しいものですよ!」
お、おう。そうか。珍しいのか。確かにほかのプレイヤーでもタヌキってあまり見ないしな。それよりも初見で犬と違うとわかるこの人もすごい。
その後は、炎王やガラハドたちに協力してもらった肉球が並ぶ。最後はクズノハの眷属の狐だ。一応話をしてみたら本人は嫌がったが、眷属はやりたいという狐ならというので『肉球帳』を開いて地面に置いたところ、好奇心旺盛な個体が何匹か一気に集まってきた。
「これは、キツネ、ですかね? なぜこんなに?」
「地面に置いたら、興味がある狐が押していきました」
「ほほう」
四方八方からべたべたに押されたページに驚く依頼人に私が答える。
それから依頼人はじっくりとすべてのページを見終えた後、ほうと、満足げにため息をついて『肉球帳』を閉じる。
「……素晴らしいものを見せていただきました。あなたもなかなかの肉球好きとお見受けします」
いや、私は肉球よりもモフがですね。と、いうのを飲み込みあいまいな笑みを浮かべる。日本人万歳。
結局、『肉球帳』は返してもらった。それどころか、追加で新しいものを一冊もらえた。これからも素晴らしい肉球を集めてほしいとのこと。ついでに見せてほしいとも。また、今後はシルを払うと新しい『肉球帳』が買えるそうだ。そこまで肉球に執着はないが、機会があったら集めてみてもいいだろう。
ちなみに、黒はともかく白は精霊カテゴリーなせいか、肉球は回収できませんでした。おのれ、おのれっ!
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肉球の日から二日遅れですが、完成したので。
